インタビュー ( 2011/8 )

 
K. Iijima ( 以下K. I. )
  「楽器や作曲を始めた切っ掛け等を教えてください」

上村 ( 以下M.U. ) 
  「そうですね、なんとなく面白そうだったので、子供の頃アコースティックギターを買いました。
  後に人から 「もういらないから」 とエレキギターをもらって、友人とロックバンドをやり始めて、ただワイワイ楽しくやってました。 作曲はその頃始めました。」

 K. I.  
「その頃はどんな音楽を聴いてたのですか?」

 M.U. 
「友人に影響されて、海外の大御所ロック全般はだいたい聞いてましたが、特に好きだったのはドイツのスコーピオンズというバンドです。
 ウルリッヒ・ロートというギタリストの細部まで計算しつくされた様な、というか、感情のこもったプレイが大好きでした」

 K. I.  
「ああ、とてもメロディアスなプレイをするギタリストですね」

 M.U. 
「そうです。本当にメロディーが美しい。僕はメロディーとハーモニーが美しいと思う音楽以外はあまり興味がないんです。」

 K. I.  
「どうして、そうなったと思います?」

 M.U. 
「どうして、ですか? うーんそうですね‥ 。 私の父親が音楽好きでオーディオマニアだったのですが、中学生の頃、たまに夜中にヘッドフォンで、父が好きな、ポールモーリアとか映画音楽名曲集のようなアルバムを大音量で聴いていたのですが、心が震えるというか‥ こんな世界があるのかと心底感動したのを覚えてます。
 その頃の影響が大きい気がします。」

 K. I.  
「大音量(笑)、やっぱり大音量だと違いますか?」

 M.U. 
「ええ、違うと思います。絵画なら、画集本で見るのと、本物を生で見る、くらい違う気がします」

 K. I. 
「絵画が好きなんですね。特に好きな画家はいますか?」

 M.U. 「たくさんいますが‥ グスタフ・クリムトとフリーダ・カーロの絵は衝撃的でした」

 K. I. 「どちらも女性人物画が有名ですね」

 M.U. 
「はい。でも自分が驚いたのは、クリムトなら「哲学」「医学」「法学」の3部作、焼失して現存しませんが。
 フリーダ・カーロは「愛は抱く」という作品です。
 実は、KALOという名はフリーダ・カーロのカーロから取らしてもらいました。カーロのスペルは”KAHLO”ですが、そのままではおこがましいと思い、KALOとしました。」

 K. I. 
「ああ、なるほど‥ そうなんですね。たしかにKALOの音楽はそんな雰囲気ですね。」

 M.U. 
「そう‥だといいですが‥ そういう偉大な芸術家達の意思を継ぎたいとは思っていました。」

 K. I. 
「ということは、今はそう思ってないと?」

 M.U. 
「いえ、そうではなく‥  説明が難しいので長くなるかもしれませんが、いいですか?」

 K. I. 
「どうぞどうぞ」

 M.U. 
「これはただ自分の考え方というだけなのですが、たとえば自分が尊敬する芸術家がいたとして、その精神性を尊びこそすれ、自分が作品を作る時に、他の作者や作品を意識しているようでは、本物の芸術は生まれないと思っています。
 これは当然で、自分らしさというとても重要な要素が欠けてしまうからです。」

 K. I. 
「では、作品を作る時に最も重要なのは、何だと思っていますか?」

 M.U. 
「難しいです。ほんとうに難しい。言葉で表現しにくいというか‥自分でもおぼろげな信念はあるのですが、それがすべてではない、とも思っていて。
 だから抽象的な表現をあえてすれば、情熱と根気と純粋性‥ そんな感じです。」

 K. I. 
「純粋性ですか。それはどういったものでしょう?」

 M.U. 
「実はそこが最も難しいです。でも実行するのは基本的には簡単でもあります。
結果や人からどう思われるかなど、全く気にせず、ただやりたいこと、ワクワクすることをやるだけですから。
 しかし作品制作の中で、そのクオリティを限界まで上げようとするなら、純粋性を客観的に見る純粋さ、みたいなものが必要となる場合がある。
 なんか言葉遊びのようですが、実際言葉では表現しにくいところと思います。」

 K. I. 
「でもなにか、わかる気がします。ところで実際作曲するときはどのように進めていますか?」

 M.U. 
「自分の場合、1曲作るのに、ものすごく時間がかかる事が殆どですね。1〜2年とかはザラです。」

 K. I. 
「1年、それは作り始めてから、mp3等の完成したデータになるまで、ということでしょうか?」

 M.U. 
「そうです。頭の中で、作りたい曲のイメージを描きはじめてから、wav、mp3、PCのソフトのデータ等として完成するまでです。 ただボーカル曲は歌ってもらわないといけないので、もっとかかったりしますが。」

 K. I. 
「殆ど頭の中ですか?楽器を弾きながらとかではなくて?」

 M.U. 
「ええ、20代前半くらいまでは、楽器を弾きながら作曲することもありましたが、それ以降はほぼ無いです。
 勿論、ギターの音決めやミックスダウン時の楽器パートそれぞれの調整、シーケンスソフトに一音一音入力していく時は楽器でノートを確認します。でも頭の中の音色と音程、長さ強さ、タイミングの確認のみです。」

 K. I. 
「それはその方が合理的だと?」

 M.U. 
「はい。そうしないとクオリティを保てるとは思えないから。というか、自分は悲しいかな、基本的な音楽の才能が殆ど無いんですよ。絶対音感も無ければ、リズム感もいい加減、楽譜などは今だにまともに読めないし。」

 K. I. 
「はははは。謙遜ですよね?」

 M.U. 
「いえ、とんでもない。本当です。もっとひどいかも知れない。楽器は下手だし。」

 K. I. 
「それで作曲できるものなんですかね」

 M.U. 
「まあ、デジタル楽器やパソコンさまさまというか‥ でも作曲そのものは頭の中で完成すれば、終わったも同然とも言えると思いますし。」

 K. I. 
「そう‥ですかね。他人に聴いてもらう訳でなければそうかもしれません。」

 M.U. 
「デジタル楽器や音源ソフトは、シンセサイザーも含め、一音一音のデジタルデータを蓄積したものですし、声も含め、生楽器の集合体と呼ぶことができると思います。
 勿論、強弱等、音のいろんな表情の変化を再現するには、膨大なデータ量が必要になりますし、それがOKとしても、PCにプログラミングしていくには大変な時間がかかります。
 だから歌声等はその表情を完全に再現するのは不可能、とは言いませんが現実的ではないということですね。」

 K. I. 
「それはわかります。たとえば実写映画で、背景等はCGでも人物は俳優、と同じようなものですね。」

 M.U. 
「そうです。だからといって、背景を軽視しているわけでなく、重要度は場合によって変わりますが。」

 K. I. 
「話を戻しますが、頭の中でイメージとのことですが、どんなイメージなんですか?」

 M.U. 
「そう‥ ですね‥  表現したい何か、たとえば何かに感動したり、特別と思える感情がわいた時に、それらをイメージできる音楽とはどんなものか、などとイメージするわけです。なんか変な表現ですが。
 そして例えば、映像的で、そこで感じている雰囲気や感情等を膨らませていって、音楽的なイメージに変えていくのですが、まだメロディ等が何もない不完全な音楽的イメージだったとしても、「ああ、こういう音楽は必ず存在する」と思えてきて、実際、その段階までいけば、遅かれ早かれ天から降りてきて、形にできることが殆どです。
 殆どというより、今のところ全てです。でも10年以上降りてこないこともありましたが。」

 K. I. 
「作曲において、天から降りてくるのを待つ派なんですね?」

 M.U. 
「はい、僕の場合それしかできない。若い頃は無理に作ってみたりしましたが、納得できるようなものはできませんでした。」

 K. I. 
「でもそれではどんどん曲を作っていく、というわけにはいかなそうですね。」

 M.U. 
「そうなんですよ。おまけに情熱が薄れると全く作れなくなるし。」

 K. I. 
「情熱か‥ やはりそこがポイントなのかな。」

 M.U. 
「情熱。そう、天というか、私は宇宙意識の貯蔵庫のような領域じゃないかと考えていますが、そこからデータをダウンロードするには、純粋な情熱が大きく関係するのは間違いないと自分は思っています。
 ですので、私のような基本的な音楽の才能が無い者は、情熱が薄れると全く作れなくなる。
 言葉で言うと簡単ですが、作り手にとっては絶望が待っているわけで、なんというか‥悲しい事です。自業自得なんですが。」

 K. I. 
「そういう経験があったのですか?」

 M.U. 
「はい何度も。その繰り返しですね。でもまあ、それも悪くないのかもしれない。
 ああオレはもうダメだと絶望していても、また気持ちが向上してきた時に、天から「これだ!」という曲が降りてきた時は、至極の感動があります。
 芸術関係に限らず、そういった事は多くの人が経験していると思います。」

 K. I. 
「ええ、まあ‥そう。わかります。ちょっと思い出しました。
 ところで、セカンドアルバムは制作中ですか?」

 M.U. 
「ええ、少しづつですが。一応頭の中だけですが、2曲は出来ています。たった2曲ですが。」

 K. I. 
「それは、今までと同じタイプ、方向性の曲ですか?」

 M.U. 
「そうですね、似ています。でもなんというか‥ 難しい‥大変だなと今は思ってます。」

 K. I. 
「どんな難しさなんでしょうか?」

 M.U. 
「それが自分でもよくわからないんです。まあ臭いセリフかと思いますが、大きな壁みたいなものを感じてます。」

 K. I. 
「それは先ほどの絶望のようなものですか?」

 M.U. 
「うーん、そうですね‥ そうなんですが、今までとタイプが違うというか‥ 今までは絶望していても、どこかいつかは超えていけると思う自分もいました。
 でも今度は一生かかっても超える自信がない、そんな気が今はしてます。」

 K. I. 
「なんか、自分に厳しすぎなんじゃないですか?向上心に関する事ですよね?」

 M.U.
「はい、そうです。向上できる自信があまりない。先ほど話した新しく作った2曲は、次の段階に行ける可能性を感じさせてくれるものだったのですが、その段階のイメージを具体化できない。
 それに正直、いろいろ疲れ果てたんだなと。だから、音楽からしばらく離れてみようかとも思ってます。」

 K. I. 
「あー、そうそう、そうですよ。きっと、エネルギーを使いすぎたんだ。休憩は絶対必要です。」

 M.U. 
「はい、そうしてみます。」

 K. I. 
「今日は長い時間、ありがとうございました。」

 M.U. 
「ありがとうございました。」